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4-22 文に託した想い

작가: 柚月なぎ
last update 최신 업데이트: 2025-10-27 09:17:38

 動揺した逢魔の前で、藍歌は冷静にその場に跪き、深く拝礼をし始めた。

「ちょ、ちょっと待って。そういうのは慣れてないのでやめて欲しいんだけど!」

 拝礼を終え顔を上げた藍歌は、首を傾げて見上げてくる。逢魔は珍しく焦っていた。無明からの"おつかい"は、届け物を置いて来るだけ、というものだったのに、まさか本人に出くわすとは思いもしなかった。

「鬼神、逢魔様。私の話を聞いてくださいますか?」

 そんな逢魔のことなど露知らず、藍歌は小さく笑う。そして縁側に置かれた文と小袋に視線を落とすと、それらを手に取り、文を広げて少し悲し気な表情を浮かべた。

「無明からね。聡明なあの子は気付いたのでしょう。私が、あの子が神子の魂を持つ赤子だと知っていて、隠していたことに」

「光架の民の役目は"記録"すること。神子の証であるあの印に気付かない方が不自然だった。当然、俺の事も知っていて、知らないふりをしていたんだよね、あなたは」

 無明が生まれたばかりの頃、逢魔は黒い狼の姿でこの邸に入り浸っていたのだ。もちろん、邪悪なものから無明を守るために。

 生まれたその瞬間から、強い霊力を持ち、それを狙った妖者が押し寄せてきた。それは宗主によって祓われたが、その後は逢魔が領域結界を張って守っていた。

 藍歌はその黒い狼が赤子の傍にいても、追い払うことはなかった。それが何者かを知っていたからだ。

「私は、あの子が普通の子として、平穏に生きてさえくれればいいと、愚かにも思ってしまったのです。ここでずっと一緒に笑っていられたら、それだけで良かったのに」

「ごめんさない。俺は、逆だったよ。俺は神子を取り戻したいと思ってた。記憶がないのは、なにかの手違いで、きっかけさえあれば戻ると」

 けれども間違っていた。

 最初から、そんなものは消え失せてしまっていた。あの日、晦冥の地で邪神を封じた日に、消滅したのだ。それでも。

「それでもあなたの子は、神子だった」

 同じ言葉をくれた。

 同じ魂を持つ、違う存在。

 藍歌は逢魔の髪に飾られた赤い髪紐を見つけて、目を細めた。

 今の逢魔は細くて長い髪を後ろで三つ編みにしており、その先に蝶々結びで赤い髪紐を結んでいた。ずっと昔、神子と一緒にいた時にしていた髪形だった。

「逢魔様。どうかあの子を、無明をお守りください」

「もちろん。それにね、神子の傍には華守もついてる。ついでに金虎の公子と信頼できる従者も、ね」

 小首を傾げて逢魔が言うと、シャランと耳を飾る銀の細長い飾りが涼しげな音を立てた。

 ふふっと藍歌は安堵したように明るく笑みを浮かべる。それを見て、逢魔もほっとする。無明によく似たその顔で悲しげな顔をされると、どうして良いか分からなくなる。気を取り直して、小袋を指差す。

「それは、お守りみたい。肌身離さず持っていて? 今の紅鏡は、おそらく安全ではないから」

「やはりこの地に、この中に、······裏切り者がいるのですね」

「まだはっきりとはわからないけど、用心するに越したことはないよ」

 はい、と藍歌は頷き、鶯色の可愛らしい小袋を胸元で握りしめた。自分がここにいることで、無明が窮地に陥らないかだけが心配だった。

「逢魔様、無明に伝えてもらえますか? もし今後、私の身になにかあっても、あなたはこの国の神子であることを忘れないで、と」

「······わかった」

 本当は。

 本当は、そんなことを伝えたくはない。もしものことなど、不安にさせるだけだ。しかしなにかあった時に揺らがないように、藍歌は決意せざるを得なかった。

 自分の事など、置いて行けと。

 逢魔が去った後、文にもう一度視線を落とす。文にはこう書かれていた。

 "――――母上、身体はもう回復しましたか? 風邪など引いてませんか? 俺は、碧水の地で元気にやってます。

 白群の一族の人たちはみんな良い人たちばかりで、友だちもたくさんできました。外の世界は見たことがないものばかりで、見るものすべてが珍しく、俺の好奇心を満たしてくれます。

 もう話は聞いているかもしれませんが、俺はどうやら神子だったようです。母上はきっと、知っていたんですよね。俺を守るために隠していた。

 そう、俺は思っています。

 あの邸での日々は、俺にとって幸せな時間でした。母上とふたりだけだった、あのなんでもない時間が、今はとても恋しいです。

 自分の使命なんてよくわからないけれど、俺は俺のやり方で、歩いて行きます。母上はどうか自分の身を、今以上に大事にしてください。俺の事は心配しなくても大丈夫。俺の隣にはものすごく頼りになる人たちがいるし、竜虎も清婉もいる。

 母上から貰った真名と同じ名を、ある人が口にしました。それを聞いた時、俺は生まれた時から神子だったんだと知りました。何の記憶もないけれど、確かに俺は、神子だった。

 でも、母上が俺の母であることは間違いないし、変わることはない。ずっと、これから先も、俺の母上でいて欲しい。俺が帰る場所であって欲しい。だから、なにも悔やむことはないし、謝って欲しくもない。

 俺は、母上が大好きだし、この旅が終わったら、一緒にたくさん話をしたい。あの縁側で、笛と琴を奏でたい。それまで待っていて欲しい。

 必ず、ここに戻って来るから。"

 藍歌は頬を伝う涙を拭うことも忘れて、文を丁寧に折り畳む。どうか、無事に戻って来て欲しい。その顔を見せて欲しい。その時が来たら、話したいことがたくさんあった。

 瞬く星々に願う。

 どうか、あの光が闇で覆われることがないように、と。

✿〜読み方参照〜✿

無明《むみょう》、逢魔《おうま》、竜虎《りゅうこ》、清婉《せいえん》、藍歌《らんか》

金虎《きんこ》、晦冥《かいめい》、光架《こうか》、紅鏡《こうきょう》、碧水《へきすい》、白群《びゃくぐん》、鬼神《きしん》、華守《はなもり》

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댓글 (2)
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柚月なぎ
kyanosさま。 コメントありがとうございます! 鬼面の青年の正体は意外と早目に明かされます。 なぜ協力しているのか、は本当の理由だいぶ後に明かされます。 無明が四神と契約することによって、どういう存在になっていくのか。第五章からはそのあたりの問題も含みつつ····今後の展開のキーポイントだったり。 最後は一応ハッピーエンドというお約束のもと、この先も読んでいただけたら幸いです♪
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kyanos
鬼面の青年の正体がものすごく気になります。 何故 邪神に協力しているのかも。 今まで無明の身体が奪われなくて良かった、 逢魔のおかげですね。 神子の力は魂に宿るのか身体にもあるのか、 たから邪神は己の器として欲している? 張り巡らせられた罠を上手く避けられますように。 そして藍歌さまの祈りと無明の願いが 叶えばいいな そう思います。
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